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2021/3/30最終修正

ここでは音(超音波、弾性波)に関して、市販超音波機器で、何処まで可能か概略の限界、或いは計測可能性を示します。

 

1) 微細欠陥の検出

2) アンカーなど棒鋼、鋼線の長さ測定

3) 鋼パイプの長さ測定

4) 矢板の長さ測定
(コラム)細い(薄い)鋼材内の縦波横波伝搬
(コラム)コンクリートの検査周波数

5) コンクリート内のジャンカ検出

6) コンクリートの版厚、厚さ測定

 

注意:見直していません。誤字脱字はお許しを。

 

1) 微細欠陥の検出

 検出限界は、通常対象材の不連続部からの反射によります。多くの材料では不連続部=粒界と思って結構です。粒界自体が、材料の平均音響インピーダンスに近い場合反射は起きないので、可成り小さな欠陥まで検出できます。寧ろ微細欠陥自体の音響インピーダンスが母材に近く検出できない事が多いです。不連続部からの反射の他、邪魔になるのは探触子内部の反射です。探触子を最大感度の探傷器に繋ぐと、ビーム路程と共に減衰するノイズが観測されます。これが探触子内の残留ノイズです。このノイズが検出限界になります。

例として碍子など緻密なセラミックの中のミクロン・サイズ1MHz30Φ広帯域探触子と高い送信電圧(1400V)の探触子で残留ノイズ程度の振幅で検出できます。

 鋼中の微細欠陥には、広開口角フォーカス探触子を使います。粒界が比較的小さな鋼管内のミクロンサイズの欠陥が10MHz40Φ広開口角フォーカス探触子で見つかります。フォーカス径が小さいので、探傷面積が狭く、精密スキャナーとの組み合わせが必要で、走査時間がかかります。検査時間短縮の為フォーカス径を大きくすると、その分検出能が下がるので、妥協点を見つける必要があります。

 

2)アンカーなど棒鋼、鋼線の長さ測定

 細い棒鋼端面に高い周波数の音波を入射すると、直ぐにガイド波と呼ばれるその棒鋼を伝わりやすい低い周波数の波に変換します。径が小さい程短時間でガイド波に変換します。その周波数より低い音を端面に入射すると、そのまま伝播します。(下図:各径の2MHzパルス音を入力し950㎜附近に伝播した時の音圧波形相当)

糸電話の糸をごく細い鋼線にし、ピンと張ると、500m程度までの会話ができます。伝わる波は縦波です。横波は振動の方向が鋼線糸と直角の為、直ぐに空中に放散します。スピーカのコーンは、縦波をボイスコイルから伝え、薄い放射効率の良い部分で横波変換にして、音を気中に放射しています。薄い物を伝わる横波は放射しやすく、長距離の長さ測定には使えません。

 ガイド波の波長は棒鋼の遅れエコー(径×0.76)の2倍の1.5倍程度です。10㎜の鋼線では15㎜の波長縦波0.3MHz程度、径が20㎜だと0.15MHzとなります。これより低い周波数の波は容易に伝播する事になります。

低い周波数なので低周波の専用機(UCT12dBなど)を用いるか、通常の探傷器に低周波アダプタLFA12を取り付け安価な対応があります。LFA12を探傷器に取り付けて測定した例で3.5Φ鋼線1.8mの多重エコーです。探触子は5MHz5ΦSHです。40mまで反射が見えています。送信直後は送信不感帯が大きくこの感度では測定できませんが、感度を下げれば測定できます。

 気中の場合、鋼線から外に殆ど音は散逸しませんので、縦波横波何れでも容易に長さが測れます。1000mも可能と思いますが、まっすぐ伸ばしての実験が出来ていないので、エビデンスはありません。吊り橋などで試したいものです。蜷局を巻くと接触点で音が散逸し全長を測る事が出来ません。

 気中ではSH波は良く伝播しますが、水中や土など液体固体が接していると、縦波より短距離で散逸します。振動の方向(専門用語で粒子速度)が外部方向だからです。縦波はポアソン現象による振動が外部に向かいますが、横波より散逸が少なく、更に材料入射直後にモード変換により、ガイド波に変換されます。径の大きな材料では高い周波数で長さ測定は出来ますが、細い径では直ぐにモード変換するので、高い周波数での計測は困難です。また、先端が45度カットなどでは、径相当波長より低い周波数でないと、反射波が戻ってきません。ガイド波は径より波長が長いので、戻ってきます(右図)。

気中でなく、地中に埋め込まれた場合は縦波の方が有利です。送信探触子に依らず、ガイド波が伝搬するので、ガイド波の周波数に感度のある受信探触子(振動子)が必要です。送信には送信エネルギーの高い探触子、受信にはガイド波の受信感度が高い物を使う二探触子法で実現にします。一振動子のみ組み込まれた探触子の一探触子法では難しっく、二枚の振動子を組み込んだ二層振動子型探触子では一探法が可能です。

 コンクリートに埋まったアンカーでは、アンカーの寸法相当とコンクリート底面の両方又は片方のエコーが観測されます。アンカーの先端形状により、コンクリート底面しか観測されない場合、両方の波形が重なっている様な場合もあります。区別が難しく、周囲のアンカーの測定結果との相関で判断する事になります。右図は両方が分かれて観測される、先端45度カット900㎜アンカーです。なお、完全に良質のコンクリートに覆われた棒鋼の音速は気中の棒鋼より音速が早くなります(ヤング率と、高コンクリートに囲まれた場合の弾性率の差)。

 

3)鋼パイプの長さ測定

 気中での鋼パイプ長の測定は、円周方向に振動するSH波が有効です。振動方向が円周方向なので、パイプから気中に散逸する音が少ないし、表面でのモード変換も少ないので良く伝わります。

 地中に埋め込まれ、土やコンクリートに接していると、直ぐに材料中に音が散逸します。コンクリートで埋まっている場合、気温や硬化時の収縮により、隙間が出来ている事が多く、乾燥状態では1mの測定した実験例もあります。水が染み込むと測れなくなります。

 ガードレールの場合パイプのネジ穴に特殊探触子を差し込み、縦波を鉛直に入射すると容易に長さが測れたと言う報告があります。

 低周波の縦波では、ガードレールのパイプ+コンクリートの厚さが測れる事があります。ガードレールのパイプの周りのコンクリートの厚さを測定して、そこからパイプの根入り長を推定する場合もあります。

 

4)矢板の長さ測定

 矢板は前述のパイプ同様に考えられます。実績としては

 A)グリ石のみに接したい海中の矢板25

 B)柔らかいヘドロに埋まった矢板20

 

何れも二探触子法0.5MHz 76Φ広帯域探触子と低周波検査装置UCT12dBに依ります。実質周波数は0.05MHz以下です。0.5MHz 76Φの代わりに0.5MHz 20Φを6個並べ、探触子ケーブルを接続しても似た結果になります。矢板の端面と同じ面積の探触子が理想と考えられ、大面積ほど端面エコーが得られるはずです。なお、一般的に二探触子法は、一探触子法より感度と帯域が広いので、長距離計測には有利です。

 硬いヘドロや土が接している場合、運よく測れる場合もあります。雨の日は測れなかったが晴天が続いた後は測れた、海岸近くで、満ち潮では測れないが、引き潮で測れたとの報告もあります。地下の状態次第の様です。

 圧入装置で矢板が挿入できると言う事は、先端まで力が弾性波により伝わっていると言う事です。従って超音波で測定可能と考えられます。25mの矢板の1波長とすると240Hz相当でかなり低い周波数になります。この程度の周波数の共振法での測定は可能を思われます。これより少し高い周波数では多重エコーも観測できると思われます。市販のファンクション・ジェネレータ、バッファーアンプ(弊社製品BUFxx)などを組み合わせて試験すると出来る可能性もありますが、今の所誰も試していません。

 

(コラム)細い(薄い)鋼材内の縦波横波の伝搬

 鋼材長手方向に縦波を入射すると、縦波はガイド波になります。棒の遅れエコーを発生する現象がガイド波を発生します。縦波が横波になり、その横波が縦波に成る、、、を繰り返し径の0.76倍程度の半周期の波になります。先端は音速の早い縦波となり、初動エコーは容易に確認できます。下図は気中の3Φ鋼を縦波が100200、、、、990㎜伝播した時の初動附近の音圧波形相当(正確には変位波形で、微分すると音圧波形になります。音圧波形と考えても大差ない。)で、初動の振幅それほど差ありません。



 

水中でも殆ど変わりませんが、コンクリート中では直ぐに減衰します。実際にはコンクリートとの間にすき間が有る場合が多く、計測可能な場合もありますが、運が良ければ測れると言う程度です。伝播するに従い先端の波長は段々伸びます。上の例では2MHzの探触子からの音波は入射直ぐに0.4MHzになり、1m付近では0.2MHzになります。概略距離に逆比例しますので、2mなら0.1MHz程度になります。

 横波入射の場合は、横波が縦波に変わりますが、横波より先に伝播します。気中では横波の遠くまで伝播します。下の例では990㎜伝播して半分ぐらいの振幅で縦波に邪魔されず計測できます。2MHzの探触子で入力下音は、入射直後に0.5MHz程度のガイド波が主成分に成って長距離周波数が変わらず伝播します。2MHz探触子が広帯域の場合は、初動から受信できますが、狭帯域の場合、初動後の高い周波数成分がエコーとして観測されます。気中では横波は長距離伝播するので、試験検査には良い波の種類です。

 しかし、水中になると、下図の様にまるっきり様相がことなります。横波は材料を左右に振る運動で、水を強く押引きします。その為、横波は速やかに水中に放散され、入射直後から縦波にモード変換した成分(進みエコー)が残り、それが横波振動子で受信され観測されます。縦波の中に小さな横波初動が存在し、下図の例では400㎜の位置では、どれが横波か判別できなくなります。なお、下図では400㎜の位置では振幅を10倍、800㎜の位置では20倍、990㎜の位置は40倍にしています。

上図は送信を2MHzとしています。多くの市販探触子では2MHz20Φ又は5MHz10Φ送信出力高いからです。5MHzでも 10MHzでも入力周波数に依らず、直ぐに同じようなガイド波周波数になります。低い周波数の探触子は原理的に送信音波強度が弱いです。送信を超音波強度の高い探触子にして、受信探触子を0.10.5MHzにすると上記図相当の波形は感度高く観測されます。一探触子法の場合二層振動子型探触子(弊社アクティブ型ISL-2N200520Cなど)を使います。

 なお、通常の探傷器と探触子の組み合わせでは、そのフィルター効果で、帯域が狭い為、上記波形の高周波成分のみエコーとして画面に現れます。例えば5MHz広帯域探触子と言っても、2.5MHz7.5MHzの帯域で、0.2MHzとかの周波数帯は音波が戻って来ても画面に現れません。その為、気中では縦波でも横波でも数十m伝播しても大して音圧振幅は下がりません。が、一般的組み合わせでは一見大きな減衰するかのように観測されます。

 

 

(コラム)コンクリート検査周波数

骨材とセメントは音響インピーダンスが異なり、骨材が不連続面を作ります。骨材の4倍程度以上の波長の音波は不連続面を無視します。骨材が20㎜で音速4000m/Sの場合、4000/80=50kHzとなります。平均骨材径は小さいので、実際には0.1MHz 100kHzが通常コンクリートの探触子の周波数の目安です。平均骨材径が5㎜の場合200kHz程度でも版厚の検査できます。一般に外観からコンクリートの骨材径は判りませんから、(超)広帯域探触子を使うのが適切です。

 厚い材料の場合、周波数は伝播距離に大まか反比例します。50㎝の透過波の良く通る周波数上限が0.1MHzの場合、5mの透過波は1/100.01MHz10kHzとなります。

 

 

5)コンクリート内のジャンカ検出

 コンクリートはジャンカだらけの場合版厚測定できますが、ジャンカは測定できません。超音波では音響インピーダンスの違いによる反射や減衰で計測するので、ジャンカばかりの場合どこも均質なので、計測できない事になります。ジャンカばかりの場合でも音速は測れ少し遅くなる程度で、その変化はジャンカによるものか、コンクリートの質によるものか区別が難しい。周囲との比較や打設状況から判断する必要があります。

 コンクリート内に部分的にジャンカ部があると、透過法のエコー振幅の変化で計測する事が出来ます。エコー振幅の変化を大きくするには、指向角が鋭い探触子が必要です。コンクリート中の波長が長いので、振動子径が大きい方が有利です。一般に76Φが使われます。もっと大きい振動子の探触子も製造可能ですが、手で走査するには76Φが限界です。

 

6)コンクリートの版厚、厚さ測定

 コンクリートの厚さは実績としては堰堤9mです(図)。9mの底面反射波の波形は約7kHzです。打ち継ぎ部からの反射も観測できます(ノロをよく掃除すると打ち継ぎ部の反射は観測できません)。版厚を測る場合、コンクリートで減衰しない周波数で、指向角を狭くすることが重要です。超音波探傷は音波が真っ直ぐ進む事を利用しています。

概略40Φ探触子で200㎜、76Φ探触子で400㎜程度の版厚まで一探触子法又はV透過二探子法で測定できます。目安として厚さの1/5の振動子径です。堰堤9mの場合1/5だと、1.8mの振動子径です。堰堤の上面幅は1mあり、Φ70㎝程度の範囲で探触子を走査して、全てのRFデータを合成し、アレイ装置などで使っている所謂「開口合成」技術で、等価的にΦ700として、計測した結果が図です。0.7/91/13ですが、コンクリートが良質の場合探触子径は1/20程度でも計測可能です。(使用装置UCT12dB、探触子0.5MHz76Φ広帯域二探触子法)多くの堰堤はコンクリートを運搬しにくい場所にあり、シャブコンに成っていている場合が多く、20%程度の堰堤しか測定できませんでした。通常のコンクリートもコンクリートの管理が十分されている場合は、1/20でも測定できますが、コンクリ自身の劣化など考慮して1/5が良かろうと思われます。

普通コンクリートの打設1月後で1mは反射法で容易に測定できます。原理的には100mも可能と思われます。

古いコンクリートに関しては、困難です。セメントが劣化し、表面が1$貨幣で容易に削れる状態で、縦波を入射すると、ほぼ全部が横波に変換します(セメントが砂と同じ状態になっている)。1世紀以前に作られた米国シアトルの世界初のコンクリート製アーチ橋ボストンブリッジを検査しましたが、3mの柱は縦波透過法での試験ではモード変換した横波が観測され、縦波エコー高さは横波の1/100程度の振幅です。縦波音速は新品のコンクリートと変わりません。劣化しない骨材のみを伝搬する為と考えられます。引張試験では殆ど強度有りませんが、圧縮試験では良質のコンクリート程度で、1世紀経った今でもそのまま使われています。アーチ橋は圧縮強度で形状を維持する考えで引張強度は必要ないのです。煉瓦で作ったトンネルと同じです。

 コア抜きサンプルを日本に持ち帰り、20年雨ざらしですが、音響的変化は確認できません。自然に出来た骨材は長期間変化しません。日本では米国みたいに川石でなく、骨材を山から砕石するので、山により化学反応して劣化する事が多いです。JR西のトンネル事故は明石の特定の山の骨材の化学変化が短時間で起きた為と考えられています。